ウスケバ・ロゴ ウスケバ・ロゴ ウイスキー造りに欠かすことの出来ない「水」そして「樹」。自然の力が生み出す「生命の水」。

2008年04月14日

錆びた釘-2

「錆びた釘」

3章


随分長いことシャワーに打たれていたようだ。時間は朝10時

バスタオルで豪快に髪の毛を乾かし、妙にお腹が空いていることに気づき、冷凍庫に常備しているうどんを取り出した。冷凍庫には財布が入っていた。

携帯を見ると、何も音沙汰はない。

恋人としての使命が私にはあったが、それ以前に社会人としての使命を果たすべく、私は仕事の準備をした。しかかって、今日が休みだと気づく。

「神様・・」

なんという間のよさであろう、と思い、神の名を呼んだ。

ということは、私は明日には社会的責務を再び果たそうとしだすことを暗示している。 明日も果たさないつもりだとしたら、この間のよさには何一つ意味がないからだ。

しかし、そもそも昨夜これだけ飲みすぎたのはあらかじめ今日が休みであるということをどこかで認識していたからである。

だとすれば、神様は実は何もしてくれていない。 神よ、貴方に感謝した数秒を返せ。 などと考える私は、昨夜共有するはずだった時間を一人で過ごした事になったあの時間を返せなどと恋人に言ってしまいそうで云々。ここではそう関係ない。


明日気持ちよく仕事に行くには、なんとかして恋人と連絡を取ることが重要だ。

私は昨日から打って変わって、積極的になった。ここがBarでなく、自宅だからだ。しかし状況はなにひとつ変っていないのである。

一応、個人としての責任を果たすべく、私は本屋に行く支度をした。なんのことはない、ただ漫画を買うだけである。

予報どおりの雨。道中、あーだこーだと、恋人に会う為の作戦を練っていたが、これと言った案がなく、ファミリーレストランでランチを済ませ、帰宅した。

自宅のTVの上に携帯電話があり、近代社会が生んだ、最高の通信手段をいざ最も大事な人を探そうとしているこの状況において、数時間に渡り放置するという愚行を行った自分を恥じた。

新着メールが一件と表示されている。

「新米と漬物を送ります 母」

という内容だった。色々と思うところがあるタイミングではあったが・・とその時、再びメールを受信した。


「昨日はごめん。今日、会えるかな?」

という内容だった。

「心配したよ。話はあとで聞く。昨日のBarで待ってます。」

という内容のメールをすぐさま返信した。


4章


Barにはまたも私が先に着いた。当たり前だ。約束の時間の1時間も前に来たのだから。

Mr.ボンバーは今日も本を読んでいる。まだ来たばかりなのか、ビールだ。

10分程して、扉が開いた。

昨日と同じ理由で、振り向かず背中で気配を探る。探り終える前に気配は私の隣に腰掛けた。

「昨日はごめんなさい」

社会人である私には十分過ぎるほど簡潔な言葉だったが、よく、意味がわからなかった。

振り向くと、手には包帯が巻かれていた。

「どうしたの?」

これも最も簡潔な言葉のひとつである。”なぜ、昨日来なかったの”とも”その怪我、どうしたの”とも取れる。どちらしても、包帯を巻くことになってしまった経緯が両方の解答になるであろう。


「ちょっと・・」

これは簡潔でない。

「ちょっと・・なに?」

簡潔だ。

「怪我しちゃって・・」

「見ればわかる。」

・・・

・・・・

「転んだだけ・・・」

「・・・」

私は決して簡潔さを求めているわけではない。事実が知りたいだけなのである。その事がわからないような人間ではないし、渋るということは何かしら言いづらいことがあるのだろう。どちらにしても、ここは酒場だ。まずは酒を。

今日はシャンパン、という感じではなかった。

「グラスワインを2つ。」

「いいえ、私はラスティネイルが飲みたいです。」

・・・ラスティネイル?昨日飲んだカクテルだ。ここはタリスカーがベースだったな。

「いいね。ごめんなさい、やっぱり私にもラスティネイルを・・」


昨日同様、手早くタリスカーとドランブイをグラスにそそ・・(あ、少し零した)ぎ、2人の前に並んだ。

「ここはタリスカーがベースなんだ・・」

ここのスタッフゥは耳にタコが出来るほどにこのフレーズを聞いたことだろう。

グラスを傾け、沈黙。Mr.ボンバーは本の内容が面白かったのか、ふふっと笑った。グラッパを飲んでいる。


「ラスティネイルって、どんな意味か知ってる?」

問われた。

確か・・・錆びた釘。

「私たちの関係は、これでいいのかな。いいえ、悪いことはないんだけど。私たちはいつも気を張って、気を使って、相手の事を信頼しすぎて・・・」


ドキッとした

「何がいいたい?」

なるべく柔らかく言った。

沈黙

・・・

「ラスティネイル、もう一杯ずつお願いします」

沈黙を破った言葉はこれだった。

・・・

少し、二ガ甘く感じた。

「この怪我、ただ転んだだけ。ほんとに。」

なんと間の悪い怪我だと思いながら話の続きを聞いた。


「錆びた釘。だなんて、例えが良くなかったね。」

「でも、思うんだ。私たちは少し距離を置いた方がいいんじゃなイカナッテ。」

「ソッチノホウガ、オタガイノタメニモ・・」


「・・・・・・・・」

途中から何を言ってるかわからなくなった。原因は?いや、理由は?錆びた?錆びてないじゃないか。いや、それは例えが悪かったと否定している。

「わかった」

精一杯搾り出した言葉がこれだった。人間、こういう時は絶望なまでに簡潔だ。

・・・

「もう一杯だけ飲んで帰ろうか」

もう、言われるがままだ。

恋人との最後に相応しいものなんて頼む気力はもはや無かった。そもそも、隣に座っている人物は、今現在において恋人なのだろうか?線引きも曖昧だ。



「あちらさんに、タリスカーと、ドランブイを」

なにか声が聞こえた。聞きなれない声だ。


スタッフゥは何かを察したように、ショットグラスに2つの酒を注いだ。

そして、私たちの目の前に差し出した。


「俺のおごりだよ。」

聞きなれない声はMr.ボンバリズムだった。

この深刻な状況に、「わ~ありがとうございますっ!」などと言えるはずもなく、ただ頭を下げ、貰った。


ボンバリズムは、また本を読んでいる。

本を読みながらぶつくさと言った。

「おっかしいよなぁ~、ウイスキーとドランブイで”錆びた釘”なんて」

「???」「???」

「”生命の水”と"満足すべき飲み物”だろう?錆びねーよそんなの」


それ以上、言葉は必要なかった。というよりも、言葉は、存在しなかった。


ちらっと隣の席を見ると、涙を浮かべ、申し訳なさそうな顔をしている、私にとって最も曖昧な存在。

「とても美味しい。タリスカーも、ドランブイも・・ラスティネイルも・・」


「もしかしたら、私たちも1個人と1個人でなく、2人でひとつの、カクテルのような存在になれるかな。それとも、本当に”錆びた釘”になっちゃうかな・・」


「・・・それは、わからないね。でも、陳腐な言い回しになるけど、やってみなきゃ、始まらない、かな。」


「・・・」





「あさって、診察に行くんだけど、一緒に来てくれる?」


「子供じゃないんだから、でも、行くよ。」


「来週は、本屋に行きたいんだけど、付き合ってくれる?」


「今日行ったところだけど、来週も行きたいな」


「今日が昨日でもいい?」


「都合が良すぎるけど、過去のことだしいいんじゃないかな」


と言って恋人同士は笑った。

爆発頭は、寝ていた。




「距離を置くんじゃなくて、距離を縮めよう。これから、少しずつ・・。」



2人は無言で頷く。




「じゃあ最後はせっかくだからボトルシャンパンを開けようか。そうだね、ヴーヴ・クリコがいいかな。」

「いいね、でも早速”未亡人”は嫌だよ。レコルタン・マニュピュランで選んで貰おう。」





ポンッ!!



シャンパンを開ける音が・・・店内に響き渡った







その音で、ボンバー紳士は、ビクっとした。








FIN
  

2008年04月14日

錆びた釘-1

「錆びた釘」








1章


朝起きると、頭の端に軽い鈍痛があった。

軽い二日酔いである。

二日酔いごとき、よくあることなのだが、今日の私は無性に嫌気がさした。

吐き気は酔いからくるものではないと確信した。

遮光カーテンの隙間から漏れる朝日から逃げる為、私はベッドから這い出た。そこで、スーツを着たまま寝ていたことに気づき、更に反吐が出そうになった。

「シャワーを浴びよう」

そう思って、冷蔵庫からペットボトルの緑茶を取り出し、風呂場に向かった(この時、冷蔵庫の中に昨夜履いていたと思われる靴が入っていたが、死にたくなるので、視なかったことにした)。

熱いシャワーを浴びながら、昨夜の事を思い出していた




2章



2人の待ち合わせは、決まって初めて行くBarだ。

2人は馴れ合う事が嫌いだ。だから、始まりはある程度の緊張感が欲しい。

BarCLANNAD。聞いたこともない。大丈夫か?いや、それでいいのだ。

客は、奇抜な髪型をした(世間ではアフロと呼ぶ)若者が1人いるだけだ。読書をしながらボトラーズのウイスキーを飲んでいる。どんな店だ?

「お一人さまですか?」

スタッフゥにそう尋ねられ、

「もうすぐ一人来ます」

と答えておいてカウンターの真ん中に座った。端には例の若者がいるので、逆端に座るのは気が引ける。

本当は、喉が枯渇しきっていてビールが飲みたくて仕方がないのだが、ここでも私は緊張感が欲しいが為にワインクーラーに冷えるグラスシャンパンをオーダーした。

見たことがない銘柄だ。味は好みのタイプである。

「雲行きが怪しいですね。」

などと、凡そ初めて会う人間同士には全く意味のない会話を振られ

「明日は雨らしいですからね。この様子じゃあ今夜も。」

などと思わず答えてしまった。

全く意味のない会話だが、必要性はあった。何故なら、ここでの天気の話は”話すことがない”からするのだ。

”話すことがない”のなら、”話さなければいい”わけである。

しかし敢えて天気の話をすることに・・・くどいので省く。


腕時計の針は、8と9の間を指している。20時に待ち合わせの予定だったがまだ来ていないということは、仕事が終わっていないのか、交通の不具合か・・もしくはもっと違う何かか・・

どちらにしても、今ここにいないことだけは確かである。心配な気持ちがないとは言い切れないが、心配しても対象が目の前にいないのだから、意味のないことだ。

電話をするという極近代的な手段もあるが、相手から電話がないのだから、これも得策ではない。

今私に出来ることは、待つ。且つ、飲む。これが2人の信頼関係、更には初めて来たこのBarとの信頼関係を損なわない唯一の手段だ。

こんな事ばかり考える自分に、つくづく嫌気が差す。

2杯目は、グレンリベット・ナデューラ。3杯目はアードベッグ・ベリーヤングをオーダーした。これには全く意味がない。あるとすれば、”飲みたいから飲む”という原始的なものだ。

アードベッグを飲み干した頃、店の扉が開いた。

扉が開く度にそれを振り返り、確認するのは少し格好つかない気がし、背中で気配を辿ると、どうやらキョロキョロと辺りを見回しているようである。

スタッフゥが一瞬目配せをし、

「お待ち合わせですか」

と尋ねる。と同時に

「あ~、いた~っ」

と読書青年の隣に座る。女だ。

私は”客は2人しかいない上に、ボンバーヘッドの男を探すのがそんなに難しいか!”と突っ込みを入れたくなったが、待ち人が来ない自分への哀れみだと気づき、飲み込んだ。

女はラスティネイルをオーダーする。なかなか渋いじゃないか。

ベースにはタリスカーを使っている。

「タリスカーを使うんですか?」

などとその女も言っている。ボンバーヘッドは、会った時こそ愛想良く笑っていたが、喋ってはいない。また本を読んでいる。

小粋なのかどうなのかよくわからないシチュエーションに戸惑う。私は普通に酒を楽しんでいる。と思う。

どうしても、私もラスティネイルが飲みたくなった。しかし如何せんタイミングが悪い。

「それ、美味しそうですね。私も飲んでみたいです」

と言ってみた。


快くスタッフゥはラスティネイルを造ってくれた。材料はまだカウンターの上に並んでいたので、流石に手早かった。

確かに美味しい。 

「お一人なんですか?」

女が喋っている。誰に?私か。

ボンバーヘッドは、何やらグラッパを飲んでいる。

「ええ、今のところ。」

何時間も待っていることが少し恥ずかしくなったのだろうか?いや、そんなことはない。ただ、”人を待っているが、なかなか来ない”と言って赤の他人に心配されるケースを懸念しただけである。

女が何やら色々話しかけてくる。どうやら、女とボンバーヘッドは待ち合わせなどではなく、単なる店の馴染み客のようだ。私も、答える。楽しくなくはない。否、それでも何かが紛れる程度に。

気づいたら日付が変わりそうだ。なんということだ。小一時間に渡り、ラスティネイルの溶けた氷以外、何も飲まずこの女と会話していたということか。さり気に冷たい紅茶は出てはいるが。

ボンバーヘッドは・・・寝ている。

「ここは何時までですか?」

と尋ねた。実は返事はどうでもよかった。それにしても、これだけ待って何一つ連絡もないということは・・

差し込むような不安がよぎる。

流石に店の外に出て携帯電話で電話をかけた。コール音が、黒柳徹子のトークで、何故か苛付いた。
。理由は明確だが・・・。そして留守電。今度は外人か。

私はカウンターに戻り、少し決意をして、ボルドーのワインをボトルで開け、差支えがなさそうなので、スタッフゥにも一杯飲んでもらった。

”連絡が付かない以上、ここで待ち続けない事には、なにも始まらない。携帯電話を無くし、その上何らかのトラブルにあって身動きが取れないことも考えうる。ここでしか会えることはない。”

と考えたかったが、この件については、私の、いかなる意味でも全く完全に哲学的ではない、美的且つ私的判断だった。


扉が開く。4人組のようだ。テーブル席に案内されている。

4人は思い思いの酒をオーダーしている。ジントニック、サイドカー、水割り・・・一人はグレープフルーツジュースだ。

・・・

”グレープフルーツジュース”と端整な身のこなしの男がオーダーした瞬間、ボンバーマンが、”ビクッ”として起きたが、これも無視した。

さっきまで話していた女は、なにやらぼーっとしている。と思ったら、

「マンゴーのカクテル!」

と勢い良くオーダーをした。

この間に更に30分が過ぎている。

もうかれこれ4時間程待っていることになる。感じてはいないが。

間が持たないから、黒板に、「珍味!たこうに!」とこの店にしては珍しくやる気(主にビックリマークだが)がにじみ出たメニューがあったので、オーダーした。うまかったが、ワインには糞ほども合わなかった。

更に時間が経ち、私はワインを一本空けてしまった。そして、かなり酔っていた。ボンバー野郎と同じリズムで揺れていた。

丁度一応の閉店時間。まだ他の客はいるが、もう帰ることにした。

店を待ち合わせで使うのなら、営業時間内でないと意味を成さないからだ。これも私の美的判断だが。


それから、どうやって一人暮らしのアパートに帰ったのかは覚えていない。

つづく



  

2008年04月14日

ゲスト・ノベリストご紹介

ウスケバでは「若造酒記」というタイトルでブログを書いておられる
DEKACHOさまより、ハイレベルな小説を寄稿していただきました!

ぜひぜひご覧いただきますよう、ここにご紹介させていただきます。

タイトルは「錆びた釘」。
そうですね、あのカクテルを訳すとこうなります。
果たしてストーリーは!?

全4章、本日二回に渡りアップさせていただきます。
ではでは、ごゆっくりお楽しみください。(^-^)/


管理人 PINOKO